No.: 153
Location: 和歌山県南部町 ショウガセ
Condition:
 海況: おだやか
Date:
1994/06/02 (Thu)
Activity:
NAUI Divemaster Course
 波: 0m 流れ: ほとんどなし
Temperature
Visibility
Bar.
Depth
Time
Instructor (or Dive Leader) Signature:
Air
Surf.
Btm.
Tank
Start
End
SAC
Ave.
Max.
Start
End
Btm.
Total
S2 Club
24
22
20
20
20
20
10
180
60
12.05
16.2
39.3
10:19
10:57
00:38
:
#26952 J.N.
m
m
m
bar
bar
ℓ/(barxmin)
m
m
 
 
 
 
 

   

  :  

EAN : %
PO2 :
MOD :
ERD :

   

  :  

Used Diving Computer

PD     

PD+     

(a)MDT     

(a)MDT     

D       

STOP
ANT
ADT
TNT
Name Age Gender Bar. Note
Start End
A.K.さん female 180 60 PADI Assistant Instructor Candidate
J.N.さん female 190 70 NAUI Divemaster Course Instructor #26952
 
 
 
 
 
 
 
 
 

Notes:

今日の目的:
  • ブリーフィング
  • ボートダイブ管理
特記事項:

実は A.K. さんが -40m 近い水深は初めてだったとのこと。-40m 付近で中性浮力が取れずに、パニックを起こしかけていたため、彼女の BC を操作するメジャー介入。介入後は普通に潜られていた。

記録:

注: 以下長くなります。

この日は S2 Club で PADI アシスタント・インストラクター・コースを受講中の A.K. さんがぼくのバディ。

この日の指導インストラクターは NAUI と PADI のインストラクターである[1] J.N. さん。彼女はダメ出しのときの言語化能力に長けていて、ぼくの何がだめだったのかというデブリーフィングでの説明がすごくわかりやすくて理解が進んだ。また PADI インストラクターでもあるので、良い点を褒めるということも忘れない人だった。この日から S2 Club のインストラクターの中で最もお世話になる。年下ではあるけれど尊敬するインストラクターの 1 人。

全てのツアー参加者にニックネームをつける人で、南部への移動中の車中で〇〇っちという呼称を与えられる。このことへの真面目な話をすると、こういった一見ダイビングと関係なさそうなことも、ゲストの緊張を和らげたり、ツアー全体の雰囲気をいい感じにするための、彼女なりの工夫だったりする。ぼくの師匠の M.S. さんが静かになってしまった車中で突然ゲストに「しりとりしましょうか」とか言うのと同じような行為。

比較するようで申し訳ないのだけれど、やはり若い人たちのほうが言語化能力は優れていて、ベテランのインストラクターの人たちの「陸ができてない」「まだまだ」とかの抽象的なダメ出しより、前回のツアー時にもお世話になった T.T. さんを含め S2 Club でも若い人のコメントのほうが圧倒的にわかりやすかった。なのでこういった言語化することって大事だなと思うようになって、自分の課題が増えた (笑)

これはベテランのインストラクターを批判してるのではなくて、どちらかというと歳がいっている、といっても当時の 30 代後半くらいからだけど、インストラクターっていうのは、指導団体を問わず、どちらかというと体育会系っぽくて、言葉で丁寧に説明するのが苦手だったりする。PADI のインストラクターであってもそうなので、これはインストラクターの世代的な特徴なんだと思う。言語化が苦手なのはぼくもそうなので、わかるっちゃぁわかる。でも言葉できちんと説明できる能力は身に着けないとな、とは若いインストラクターたちに接してて強く思った。

それでこのダイビングではぼくが引率役で、バディの彼女がファンダイバー役ということで進められた。午後は交代してぼくがファンダイバー役を務めるという段取り。

まずはブリーフィングから。指導インストラクターから S2 Club ではブリーフィングはこれを見ながら行います、とパウチされた A4 のシートを渡される。もらえるわけではない。A4 の両面にブリーフィングで話す項目がぎっちりと並べられている。まずは指導インストラクターによるお手本が実演される。全てを説明するのに約 15 分。な、長い。

長いんだけど必要なことが過不足なく説明される。だけど、これってゲストの人たち、覚えきれないよなとも思う。最初はどうしようと思っていたのだけれど、後日フィクションのインストラクターちゃんシリーズの長いブリーフィングの話で描いたように最後の Q&A を加える形に自分は落ち着いた。特に最後に覚えられなくても水中でスタッフがサポートするから安心してください、と付け加えるのは絶対に忘れないようにした。やっぱりゲストが "I'm OK." と安心感を感じることができるのって、ダイビングを楽しむこと、そしてパニックなどのトラブルを予防するには最も大事だったりするので。

そしてボートの時間になるので、ゲスト役の彼女に機材の用意やボートへの積み込みなどの流れの説明と指示を行い乗船。ボートでの過ごし方や注意点はブリーフィングで話しているので、ボート上では談笑して過ごす。海況は波もほとんどなく穏やかだったので、あまり海況に関する注意点を話すことはなかった。とはいえ、あくまでダイブマスターコースなので、いつもの仕事でゲストに対してするように細かいフォローアップはしていた。

そして 3 人でバックロールでエントリー。指導インストラクターはスレートと鉛筆を手にしながら、ぼくたちの少し上を潜降ロープ沿いにゆっくりとフリー潜降。ゲスト役のバディの彼女はロープを掴んでの潜降。ぼくはというと彼女の横にくっついて、ときおり耳抜きや "Are you OK?" と確認しながら彼女をアンカーまで誘導する。彼女はアシスタント・インストラクター候補生でもあるので、落ち着いて潜降していく。通常のゲストではないので正直楽だな、と思った。そう思っていた時期もありました。

アンカーに着いて、全員の残圧と何か問題をかかえてないかのチェック。もちろんダイブマスターコースなので、指導インストラクターに対してもチェックを行う。全員に問題がないことを確認して、これから進む方向と、さらに水深を下げることをハンドシグナルで 2 人に伝える。

ショウガセといえば、やはりゲストに見せないといけないのはオオカワリイソギンチャクの群落なので、群落のある -40m 近くまで降りていく。もちろんそのことはブリーフィングでマップを見せながら説明済み。いくらダイビング・コンピュータを使用していても、-40m には長居はできないので、そのことも説明済み。

バディはぼくの横に着くのではなく、後ろに着いている。そこまで通常のファンダイブのシミュレートを徹底するのかと思ったことと、指導インストラクターがアシスタント役でもあったので、グループ、といってもぼくを含めて 3 人だけだけど、を先導してオオカワリイソギンチャクの群落に向かう。

この日の最大水深まで来た辺りで、ゲストの呼吸音がなんだか怪しいことに気がつく。振り返ると彼女が立泳ぎ状態で必死にフィンキックしている。水深 -40m 近くでだ。マジか!?演技!?本気!?どっち!?

そう思いながら BC に吸気するようにハンドサインで指示を出す。アウトカムがない。これはマジかもと思って彼女に近づき?トラブル発生?OK?といったハンドサインを、彼女のマスクの真ん前で出すけど、全然見えてないのかやはりアウトカムがない。同時にアイコンタクトを取ろうとしていたのだけれど、こちらが見えてないとしか思えない必死な形相になっている。

パニックになりかけてて、コントロールを失いかけてると判断して、いつもなら指示を出すだけにして自分で問題を解決するように促すのだけれど、そんな悠長な状態ではないと思い、彼女の BC のインフレーターホースを掴んで BC に吸気する。彼女が中性浮力を取れるように、ぼくが彼女の BC に吸気するのだけど、-40m 近くの水深なのに、彼女の BC への吸気がぜんぜん足りていないことに気がつく。

とはいえ、彼女もある程度の経験本数はあるので、中性浮力が取れるようになると、ぼくが彼女の肩を叩いてから出すOK?のハンドサインにも反応するようになって、落ち着いた反応が返ってくるようになった。

このヒヤリハットで -40m 近くに長居しすぎてしまった。なので浮上には時間をかけるようにした。最初から浮上に時間をかける予定ではいたしブリーフィングでも話していたけれど、-20m を超えるとダイコンに表示されていたシーリングは消えていたので、正直ホッとした。

ファンダイビングの引率を想定しているので、最大水深から水深を浅くしていくときは単に時間をかけるというだけでなく、魚やそれ以外の生物などを見せるということも当然行った。安全停止後、浮上して、ボートにエグジット。ビーチのボートが戻って再上陸。このダイビング自体は終わりとなった。

その後、今のダイビングのデブリーフィングが行われる。だけれども指導インストラクターの J.N. さんからのコメントがほとんどない。それどころか普通のファンダイブのようにカンパチ来ましたねぇ、とか、イサキの群れすごかったですねぇ、とかファンダイブじゃないぼくたちに言っている。

でもさすがに何か言いたそうな表情は読み取れたので、おそらくさっきのヒヤリハットを、どう扱って、それをどうぼくたちに話すのか逡巡していたんだろうと思う。本音のところではぼくたちを叱りたかったんじゃないかと思う。

しばらく後に、ぼく自身が当事者となるプチパニック事件では、彼女は事件当事者の 2 人以外の他のゲストがいないときは、顔から笑顔が消えて寡黙になるだけでなく、さすがに怒っていた。それだけのやらかしだったわけだけど、彼女が本気で怒ったときは寡黙になるというのがそのときになってわかったので、彼女が寡黙になったらやばいことをした、というのが自動的にわかるようになってしまった。

今回の反省点と学び:
  1. ブリーフィングで水深と中性浮力に注意することは、もっと強調すべきだった。
  2. 不安を感じたり、なにか困ったことがあったら、即時伝えるようにブリーフィングに追加すべき。
  3. 特に我慢は厳禁と伝えることは重要。
  4. バディの彼女がアシスタント・インストラクター候補生ということで普段より警戒を緩めてしまっていた。
  5. 引率の実習とは言え、ぼくが彼女のバディであることに変わりはないのだから、先導するのではなく、彼女の横にいるべきだった。
  6. 上記位置取りの悪さから、彼女が BC に十分吸気していないことに気がついたのが水深 -40m という事態になってしまった。
  7. いくらリーダーシップ候補生と言えども、未経験な領域では一般のファンダイバーのようにヒヤリハットやトラブルを起こす。
  8. 大丈夫な人かどうかは一緒に潜ってモニターする以外に知る方法はない。カードもランクもログもあまり役に立たない。
  9. 演技か?と思う暇があるなら即時行動せよ。-40m なのだから。
今後の課題:

S2 Club の浮上プロトコルでは安全停止地点と、ボートのラダーの間をスタッフがゲストを 1 人ずつ誘導するようになっている。これは関東でファンダイバーがボートに頭部を激突させて失神してそのまま溺水するという痛ましい事故があったことによる。もちろん S2 Club はまったく無関係のよその個人ショップのツアーで発生した事故ではある。だけれども、全国のショップの浮上プロトコルに大きな影響を与えた事故になる。当時テレビで事故の様子が何度も何度も流されていて、こんなの興味本位で公共の電波に流すなよと当時思っていた。

この浮上プロトコルの問題点は、安全停止は -5m で 3 分が望ましいとされていたにもかかわらず、ゲストの人数が増えると、最後に浮上する人は -5m で 10 分以上待つことになるということにある。安全停止は 5 分の方が減圧症が発生しにくい、10 分を超えると効果が増えることはない (効果が減るわけではない)、というエビデンスがでてくるのはもっと後の時代になる。

もう一つの問題点は、引率者は安全停止水深と水面の間を人数分の回数、往復することになる。当然ダイコンの NDL 表示を守っていても減圧症リスクは増大する。ダイコンのソフトはこのようなイレギュラーな潜水プロフィールは前提にしていない。ゲストの通常の潜水プロフィールと比較して、遥かに減圧症リスクの高い潜水プロフィールでぼくたちは潜ることになる。かといってゲストのもしもを考えると、この水面との往復をやめるわけにはいかなかった。