1999 年 3 月 21 日
和歌山県串本町 住崎における重大インシデント報告書

報告年月日:2026年4月14日

報告者:大山貢

1. 経過の概要

1999年3月21日、和歌山県串本町住崎において、ダイブマスタートレーニング中の筆者がガイド役を務めるレクリエーショナル・ダイビング中、筆者およびバディの急速な空気消費による残圧低下が発生した。事態を認知した直後、筆者は過剰な認知負荷により思考のホワイトアウト(認知のフリーズ)に陥り、適切な緊急対応(即時浮上指示・エアシェア等)の意思決定を喪失したままガイド業務を継続。結果として呼吸用気体が完全に枯渇し、ゲストとゲスト役指導インストラクター計2名を水中に残した状態で緊急スイミングアセント(ESA)を実施するに至った重大なインシデント(クロースコール)である。

2. 事実情報

2.1 発生日時及び場所

2.2 関係者の情報

2.3 事象の経過(フェーズ分解)

本インシデントの経過を、認知および状態の変化に基づき以下の4フェーズに区分する。詳細は別添の時系列ログを参照。

2.4 潜水条件及び使用器材(ログデータ)

本インシデントにおける客観的な潜水データおよび装備は以下の通りである。

2.5 背景・環境要因(組織・教育システム)

インシデント発生の背景として、以下の構造的要因が認められた。

  1. ゴールの不明確さ: 修了要件(ゴール)が定義されていない、終わりが見えないDMトレーニングコースであった。
  2. 教育システムの未成熟: トレーニングにおけるフィードバックループでの言語化不全が存在しており、適切な課題認識の共有がなされていなかった。
  3. 認知負荷の増大: 上記要因により、水中の実務以上に「評価」や「不明確な役割」に対する心理的リソースの過剰消費が発生していた。

3. 分析

3.1 異常な気体消費のメカニズム

本潜水における筆者の気体消費率(RMV)は 22.11 L/min と算出されている。通常、プロレベルのダイバーが平穏な海況(透明度8m、水流の記録なし)で記録する数値(約12〜15 L/min)を大幅に超過している。また、同様にプロレベルであるバディも、10Lタンクで180bar(1800L)を消費している。

器材のフリーフロー等、物理的なリークの事実が確認されていないことから、この異常な気体消費は、終わりの見えない長期的ダイブマスタートレーニング(指導インストラクターの評価下でのガイド実習)という環境がもたらす慢性的なプレッシャーにより、無自覚の過呼吸(Hyperventilation)が引き起こされていたことが合理的に推認される。

3.2 認知のコンフリクトと思考のホワイトアウト

残圧40を認知した時点(#4)で、「ゲストをアンカーまでガイドする」という強固なルーチンと、「自身の気体が枯渇する」という生存の危機が衝突(コンフリクト)した。教育的プレッシャーにより極限まで高まっていた認知負荷が限界を超え、システムダウンとも言える「思考のホワイトアウト(#5)」が発生。高度な状況判断や代替案の実行プロセスが完全に停止した。

3.3 タスク・フィクセイションによる意思決定の喪失

思考のホワイトアウト後、脳は生存のための「即時浮上」という非日常的な判断を下すことができず、最も強くインストールされていた「ガイドを継続する」という現在進行中のタスクに認知機能が固着(タスク・フィクセイション)した。これにより、物理的な気体枯渇(#8)という限界点に激突するまで、事態の回避行動が取られなかった。

4. 結論

5. 安全・再発防止に向けた安全勧告

5.1 当事者・現場レベルへの勧告(自己防衛・フェイルセーフ)

5.2 組織・教育システムへの勧告(アーキテクチャの改修)


[別添1] 時系列ログ

【記入ルール】

■目的

時系列の事実を整理する

■ルール

■フォーマット

[時刻]:
[時系列位置]:
[種別]:行動/認知/状態/環境
[出来事]:
[詳細]:
[残圧ログ]:
[位置]:
[情報源]:
[確度]:

[時刻]:10:00
[時系列位置]:#1
[種別]:行動
[出来事]:エントリー
[詳細]:
[残圧ログ]:
[位置]:水面
[情報源]:ログブック
[確度]:高

[時刻]:不明
[時系列位置]:#2
[種別]:行動
[出来事]:筆者が全員の残圧等チェック
[詳細]:
[残圧ログ]:
[位置]:
[情報源]:記憶
[確度]:中

[時刻]:不明
[時系列位置]:#3
[種別]:行動
[出来事]:筆者がガイド位置で移動
[詳細]:
[残圧ログ]:
[位置]:
[情報源]:記憶
[確度]:中

[時刻]:不明
[時系列位置]:#4
[種別]:認知
[出来事]:筆者と池辺の残圧を確認
[詳細]:筆者40、池辺50、ナオナオ80、アンカーへ戻る途中
[残圧ログ]:
[位置]:水深15m程度(記憶)
[情報源]:記憶
[確度]:中

[時刻]:不明
[時系列位置]:#5
[種別]:状態
[出来事]:思考過程の記憶が連続していない
[詳細]:前後の判断・意思決定の記憶を想起できない
[残圧ログ]:
[位置]:
[情報源]:記憶
[確度]:中

[時刻]:不明
[時系列位置]:#6
[種別]:認知
[出来事]:全員の残圧を確認
[詳細]:筆者の残圧が0であることを確認
[残圧ログ]:
[位置]:
[情報源]:記憶
[確度]:中

[時刻]:不明
[時系列位置]:#7
[種別]:認知
[出来事]:池辺の残圧を確認
[詳細]:残圧10
[残圧ログ]:
[位置]:
[情報源]:記憶
[確度]:高

[時刻]:不明
[時系列位置]:#8
[種別]:状態
[出来事]:呼吸用エア供給停止
[詳細]:レギュレーターからの吸気が1回で停止
[残圧ログ]:
[位置]:
[情報源]:記憶
[確度]:高

[時刻]:不明
[時系列位置]:#9
[種別]:行動
[出来事]:緊急スイミングアセント実施
[詳細]:
[残圧ログ]:
[位置]:
[情報源]:記憶
[確度]:高

[時刻]:不明
[時系列位置]:#10
[種別]:行動
[出来事]:筆者と池辺が水面に到達
[詳細]:
[残圧ログ]:
[位置]:水面
[情報源]:記憶
[確度]:高

[時刻]:不明
[時系列位置]:#11
[種別]:行動
[出来事]:筆者がナオナオと中川の捜索を開始
[詳細]:
[残圧ログ]:
[位置]:
[情報源]:記憶
[確度]:中

[時刻]:不明
[時系列位置]:#12
[種別]:認知
[出来事]:ナオナオと中川を発見
[詳細]:水中で発見、安全停止中であることを確認
[残圧ログ]:
[位置]:
[情報源]:記憶
[確度]:中

[時刻]:10:31
[時系列位置]:#13
[種別]:行動
[出来事]:筆者が浮上
[詳細]:ナオナオを中川に託した後に浮上
[残圧ログ]:
[位置]:水面
[情報源]:ログブック
[確度]:高

[時刻]:10:3?
[時系列位置]:#14
[種別]:行動
[出来事]:全員がボートにエキジット
[詳細]:
[残圧ログ]:
[位置]:ボート
[情報源]:記憶
[確度]:中

[時刻]:不明
[時系列位置]:#15
[種別]:行動
[出来事]:ボートが帰港
[詳細]:袋港シーマンズに帰港
[残圧ログ]:
[位置]:船上
[情報源]:記憶
[確度]:中

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