:
| EAN : | % |
| PO2 : | |
| MOD : | |
| ERD : |
:
Used Diving Computer
PD
PD+
(a)MDT
(a)MDT
D
| STOP | |
| ANT | |
| ADT | |
| TNT |
| Name | Age | Gender | Bar. | Note | |
|---|---|---|---|---|---|
| Start | End | ||||
| A さん | この日のインシデント当事者 | ||||
| 細井さん (仮名) | NAUI アシスタント・インストラクター候補生。筆者と同じくアシスタントとして入る。 | ||||
| その他記録なし | ベテランから AOW 取り立ての人までの混成チーム | ||||
Notes:
インシデント報告っぽくなってしまうかもしれない印象深いダイビングでした。
ぼくはアシスタント・インストラクターに認定されてはいたものの、認定されてから海に入るのが 6 本目であり、アシスタント・インストラクターにとしては、まだ素人同然ということになります。
前日にツアー催行者でショップオーナーである師匠から翌早朝 5 時に起床してそのまま出港ということがアシスタントのぼくたちだけでなくゲストの全員にも伝えられていました。師匠がなんでそんな早朝に潜る決定をしたのかは記憶していません。
ぼくを含む当時2名のアシスタントは引率責任者である師匠の指示に従って、師匠の手足となってゲストのサポートをするという位置づけでした。
もちろん引率責任者はオーナーである師匠、そしてアシスタントはアシスタント・インストラクターとして認定されたばかりのぼく、そしてアシスタント・インストラクター・コースを受講している真っ最中の細井さん (仮名) の二人でした。ボートの船長はいつもの笹原さん (仮名) ではなく、笹原さんのお父さん。超がつくくらいのベテラン漁師さんで船長さん。
ほくはこの日まで浅地には入ったことがなかったので、地形などを覚えてまずは今後きちんとアシストができるようになろうと目論んでいました。
早朝浅地にボートが着いてみると、海面が滑って膨らんでいます。どうみてもすごく流れてる。
この日は紀伊半島南東沖に台風 21 号 (KINNA) があり、南西から大きなうねりが入っていました。台風が紀伊半島の南東側にあり、串本には潮岬があることから、海は大きく荒れないと見込んでの早朝ダイブでした。
でも台風の影響で発生している大きく強いうねりが、浅地の根に当たって表層に強い流れを生み出していました。
この状態で全員が入るのだろうか?とぼくは緊張します。ゲストを見渡してもベテランの人も含めて、これで潜るのか?という不安そうな表情です。
みんなの緊張した表情を見た師匠が「怖い人」とゲストに訊ねます。A さんお一人が手を上げます。
「正直やね。それじゃぁ、ちょっと俺が大丈夫かどうか見てくるわ」と言って師匠が1人でエントリーしていきます。これはこの頃の Triton のいつもの光景で、ゲストの不安を和らげるためにインストラクターがまず海に入って評価するということをするのが Triton での通常の運用でした。
しばらくして師匠がボートに上がってきます。大丈夫。いけるわ。(水深) -19m あたりから流れてないから問題ないわ。流れてるのは上だけ」と師匠が言います。
でも水面はとんでもなく流れているので、どうするんだろうと師匠を見ていたら、船長にカレントラインを流すように頼んでから、ラダーを下ろしてラダーとアンカーラインにロープを渡します。そしてゲストにラダーから海面に降りて、たったいま繋げたラインを辿ってアンカーロープに移動し、直ちに潜降して水深 -19m で集合との指示を出します。
こういうときはこのようにゲストが潜れるように準備するのか、とずっと見ていたのですが、師匠がどうするのかずっと見ていたぼくと細井さんに「お前らは船首からエントリーして水深 -19m で待機!!さっさとしろ!!」と師匠が指示します。
「こんなん危ないからやめとけぇ」と笹原船長の小さな声が背後から聞こえます。
ぼくと細井さんは流されにくいように BCD から完全にエアを抜いて、船首からジャイアントストライドなんかではなくて直立状態でエントリーします。ジャイアントストライドなんてしていると、あっという間に流されるからです。
ぼくと細井さんは当然ゲストと違ってラインなんて手にしていませんから、。アンカーロープまで必死に泳ぎます。二人共普段とは異なるエントリー方法の衝撃でマスクがちょっとずれていましたが、マスクを直す余裕なんてありません。まずは流されないためにアンカーロープにつかまることが先決です。
アンカーロープにたどり着くと、さっさとマスクを直して、潜降します。やっぱりすんごく流れてる。ロープから手を放すとおそらくロープには戻れません。
本当にみんな潜ってこれるんだろうか、大丈夫だろうか、と思いつつも流れが収まるあたりまで潜降していきます。流れが収まった当たりでダイコンを見るとたしかに水深 -19m。師匠の言ったとおりです。ここまで潜ればたしかに大丈夫。でもこの水深で全員が降りてくるまで待つのか、とか思ったりもしていました。というのは水深 -19m ですから、すでにディープダイブです。
実際にはぼくたちに前後してゲストの多くの人はすでに潜ってきていましたから、ぼくも細井さんもゲストの残圧をチェックしながらゲストの人数をチェックします。あれ?1人足りない?まだ降りてきてない?そう思ってボートの方を見上げると、A さんが水深 -5m あたりでアンカーロープにつかまったまま、潜ってこようとしません。
なんであんな流れが強いなかでじっとしてるの!?すぐに -19m まで潜降って言ってたやん!!、って心の中で悲鳴をあげながら A さんのところにすっ飛んでいきます。ピンポンダイビングが良くないことはわかっていますけれど、そんな悠長なことを考えている状態ではありません。自分の減圧症リスクなんて二の次です。それに潜降開始から、まださほど時間が経っていません。それより A さんの安全です。
ぼくは A さんに潜降のハンドサインを送ります。
A さんは首を横に振るばかり。
ぼくは A さんに異常あり?のハンドサインを送ります。
やはり A さんは首を横に振るばかり。
ぼくは A さんにアイコンタクトを取ろうとマスクの中を覗き込みます。
A さんは大きく目を見開いて首を横に振っています。
これはアカンわ、パニック状態だわ、このままだと危ない、ボートに上げるか、と思ったところに、師匠がぼくへの怒号を叫びながらこっちに泳いできます。何を言っているのかは聞き取れませんが、何を言っているのかはさすがにわかります。
「こんな危ないところでモタモタするな!!さっさと降ろせ!!この阿呆!!」というような意味のことをぼくに言ってるのは分かります。ぼく自身も最初は A さんのファーストステージをひっつかんで、ここよりも安全な -19m に連れて行ったほうがいいかも、とも考えていたので。
そして師匠は A さんのファーストステージをひっつかんで浅地の水深 -30m 付近に連れていきます。師匠がぼくへの怒号を放ちながら A さんを引っ張っていくのを見て、よかった、師匠が一緒なら大丈夫だ、とぼくは安心します。
いまの A さんのトラブル対応でエアを食ったな、と思ったぼくは水深 -19m 辺りをキープして、下にいる師匠、A さん、ゲストの皆さん、細井さんをずっと見ていました。他の方が浮上してきたら浮上からエキジットのサポートをしないといけないと思っていたので。
それで上からずっと A さんを見ていたのですけれど、A さんの様子がなんだか怪しい。動きがあまりないな、と思っていたら、咥えていたはずのセカンドステージが口から離れてゆらーっと漂い始めてる。ゲッと思ったら師匠が予備のセカンドステージを咥えさせようとしている。水深 -30m で。
まもなく師匠が A さんをホールドしたまま、偉いスピードで浮上してきて、ぼくの眼の前を通り過ぎていきました。分速 18m より早かったかもしれません。でも浮上スピードとか言ってられない事態だっていうことは、経過をずっと見ることになってしまっていたぼくにもわかります。
下ではベテランさんと細井さんが協力してゲスト全員を集めて浮上を開始し始めています。ぼくは下は流れてないので細井さんとベテランさんに任せれば大丈夫であろうと考えて、流れれている -19m から水面までの間のゲストにサポート体勢に、入ります。
もちろん流れが強すぎて鯉のぼり状態になりながらのサポートです。サポートと言っても浮上したらエントリー前に設置したラインにつかまったままラダーに移動してエキジットするようにハンドサインと身振り手振りで知らせるだけなのですけど
この頃は安全停止という概念は言葉ですら存在していなかったので、次々と浮上してくるゲストに浮上するように伝えていきます。でもお一人だけ、ぼくの目の前でとんでもない行動を取られます。ぼくのいる水深まで来た途端に、そのゲストはなぜかロープから手を放されました。
え?っと思ったのもつかの間、そのゲストはどんどん流されていきます。ぼくは片手でロープを掴んで、反対の手を必死に伸ばします。そのゲストは目を見開いて必死にぼくの方に泳ごうとします。
ぼくがロープから手を離してそのゲストを追いかけるというシナリオはありえません。ぼくの伸ばした手のひらからロープまでどう考えても 1.5m はあります。そしてぼくの手に向けて手を伸ばすゲストとの距離は 1m 近くまで開こうとしています。
ぼくがロープから手を離すと、2人が 2.5m を泳いでロープに戻ることは不可能で、2人の人間がそのまま潮の流れにながされることになり、そしてその時の流れの強さからカレントロープに掴まることができるとは考えられず、2人とも流されるしかない。
ですからぼくとしては、泳げ!!もっと必死に泳げ!!死にたくなかったら必死に泳げ!!おれの手を掴んだからと言って泳ぐのをやめるんじゃない!!泳げ!!ロープを自分の手で掴むまで泳げ!!と念じながら必死に腕を伸ばし、そのゲストの手を掴んだら必死に引き寄せるしかないのでした。
そしてそのゲストがロープに戻ったことで、そのゲストと一緒にぼくは浮上してエキジットします。そのゲストがラダーを登り始めるまでずっと付き添っていました。そうしないと、またこの人はなにかやらかすかもしれないと思っていたからです。
ぼくが最後にエキジットして機材を片付けると、A さんがボートの床に寝転がってぐったりしています。声をかけようと思いましたが、A さんはそんな状況ではなさそうでした。
もしかすると A さんは、もううちの店には来ないかもしれない、そう思いました。そしてそれは現実になりました。
これがぼくの初めての浅地でのダイビングになります。地形を覚えるどころではありませんでした。
A さんだけではありません。今振り返ると、強い流れの中で、ぼくを含めてその場にいた多くの人が普段とは大きく異なる判断と行動を取っていたように思います。
その上で、今の自分ならこう考えます。水深 -5m の激流の中 A さんに接触した時点で A さんを説得し続けるのではなく、ただちにボートへ戻すべきでした。流れが止まるとはいえ、水深 -19m 以深へ半ばパニック状態の人を連れて行くべきではありませんでした。やはりぼくを始め、現場にいた全員が海況による強いストレスの影響を受けていたのだと言えると思います。