バーr……blog のようなもの 2025 年 07 月

07 月 17 日 ( 木 )

Dive #30: NAUI ダイブテーブルの引き方の復習

NAUI ダイブテーブル 2022 年版

すこし古いものなのですが、Yahoo 知恵袋に NAUIのダイブテーブルの見方がわからない、という相談が載っていました。質問者の人の意図はわかりかねますが、ダイブテーブルが苦手という人は少なくありません。なのでちょっと復習していきましょう。

ダイブテーブルは画像の NAUI の 2022 年版を使用し、Yahoo 知恵袋の質問者 (以下質問者と記します) の方の潜水プロフィールを用いて、NAUI ダイブテーブルの引き方を説明していきます。そして最後に筆者が感じた質問者の方の減圧症リスクを高めてしまう潜水プロフィールの問題に言及したいと思います。

以下なるべく丁寧になるように心がけて説明していきます。

質問者の方が提示された潜水プロフィールは以下のようなものでした。

1 本目:
  • 最大水深: 17m
  • 平均水深: 9.4m
  • 潜水時間: 40分
水面休息時間:
01:30
2 本目:
  • 最大水深: 19m
  • 平均水深: 12.5m
  • 潜水時間: 40分
水面休息時間:
01:00
3 本目:
  • 最大水深: 14m
  • 平均水深: 10m
  • 潜水時間: 40分

説明の条件として以下を設定します。

1 本目

NAUI ダイブテーブル 2022 年版

オープンウォーターの講習で学んでいるはずですが、復習のために表 1 を引く目的をはっきりさせておきましょう。

表 1 を引く目的は、計画しているダイビングで、その最大深度の MDT を超えていないことを確認することと、そのダイビングを終えた直後の反復グループ記号を求めることにあります。

質問者は反復潜水ではない最初のダイビングを、最大水深 -19m、40 分で行っています。このダイビングが、減圧症を予防する上で望ましいダイビングであったのか、まずは見ていきましょう。

わたしたちは日本人でメートル法の世界で生きていますので、msw という欄で該当する最大水深を探します。

1 本目の最大水深は -17m ですからそれを探します。ですがありませんね?そういうときは -17m に最も近く深めの水深を選択するのでした。つまりここでは赤丸で囲まれた -18m を選ぶことになります。

NAUI ダイブテーブル 2022 年版

次は右方向のマスで、潜水時間の 40 分を探します。すると 40 分を超える最小値の 45 分が見つかります。 1 つ手前のマスの 39 分は選べません。潜水時間が 39 分を超えているからです。なので赤丸で示した 45 分を選びます。

この表 1 から、質問者は -17m での MDT の 50 分を超えた潜水は、していないことがわかります。なので質問者は減圧停止は必要ありません。

NAUI ダイブテーブル 2022 年版

そのまま表 1 を下にたどって、1 本目のダイビングの反復グループ記号を確認します。赤丸で囲んだ H が、1 本目を終えて浮上した直後の反復グループ記号になります。

水面休息時間

NAUI ダイブテーブル 2022 年版

わたしたちはダイビングとダイビングの間に水面休息時間を設けて、体内に過剰に溶け込んだ窒素を、呼吸を通して体外に排出するのでした。なので水面休息時間を適切に摂ることで、体内の過剰な窒素が排出されて、反復グループ記号が変化するのでした。

表 2 は水面休息後に、反復グループ記号がどのように変化するのかを確認するために引きます。

質問者の場合はどうなるのか見ていきましょう。

彼の場合、1 本目のダイビング終了直後の反復グループ記号は H でした。1 時間半後の反復グループ記号がどうなるでしょうか。

赤丸で囲った 1 本目直後の反復グループ記号 H から、表 2 の下向きに彼の水面休息時間の 1:30 を含む範囲のマスを探します。すると 0:53 〜 1:44 のマスが見つかります。ここもわかりやすいように赤丸で囲っておきました。

次にそのまま表 2 を左にたどっていき、次の反復グループ記号を見つけます。赤丸で囲った G が新しい反復グループ記号になります。

1 本目直後の反復グループ記号が H でしたから、彼は 1:30 水面休憩時間をとることで、2 本目直前の反復グループ記号が 1 段分減って G になったことがわかります。

わたしがオープンウォーター I ダイバーだった頃、まだダイビング・コンピュータがなかった頃になりますが、わたしであれば水面休息時間を 2 時間 38 分以上とって反復グループ記号を E まで減らすようにしていたと思います。それくらい残留窒素量を減らさないと、MDT 以内だとしても減圧症リスクが高くなりますし、2 本目のダイビングの潜水時間に余裕がなくなるからです。当時安全停止という考えた方がなかったということもあって、余裕のある計画と実施は当然のことでした。

こういった考え方は古臭いものではなくて、実はダイビング・コンピュータを使うことが当たり前になった現在でも、大切な考え方になります。ダイビング・コンピュータを使うようになった今でも、より浅く、より短くというダイビング・プロフィールは減圧症を予防する上でとても大切です。

実際にダイビング・コンピューターが普及してから、様々な論文や DAN の報告で減圧症が激増しているということが報告されています。ダイビング・コンピュータの普及が、従来のより浅く、より短く、というダイバーにとって望ましい習慣を絶滅状態にしてしまったという指摘があります。

このことは、本来減圧症を防止するための高い利便性を持つデバイスだったはずのダイビング・コンピュータを、深く長く潜るためのツールとして誤用する習慣を、わたしたちダイバーが身につけてしまったということを意味しています。

これは自動車のタイヤ、ステアリング、その他足回りの性能がアップしたことで、基本を忘れて急ハンドル、急加速、急ブレーキ、車間も取らない、急な路線変更をする、急カーブに十分減速せずに突っ込むような危険な運転を繰り返すドライバーになってしまっているのと同じようなことだとも言えます。

わたしたちダイバーはほぼ全員そろって、インストラクターから一般のファンダイバーに至るまで全てのダイバー全員が、初心に立ち返って、ダイビング・コンピュータを減圧症予防のために使う、という当たり前で本来の姿に戻らなければならないことを意味します。これは建前などではなく、全ての医療機関からの報告、DAN からの警告の全てが物語っていることなのです。

話がだいぶ逸れてしまいましたので、ダイブテーブルに戻します。

表 3 です。

NAUI ダイブテーブル 2022 年版

表 3 は RNT (残留窒素時間) と AMDT (修正最大潜水時間) を求めるための表でした。AMDT は簡単ですね。次のダイビングで減圧停止なしに潜れる最大の時間でした。それに対して RNT ってなんだっけ?っという人は少なくありません。

RNT はその反復グループ記号が示す、体内の過剰に残留している窒素量を、計画してる次のダイビングでの潜水時間に換算したものでした。つまり RNT が 0 でないということは、次のダイビングで計画している水深にすでに RNT 分の時間、余計に潜っているのと同じだということを示しています。

たとえば RNT が 水深 -21m で 34 分であれば、次のダイビングで潜る前から 34 分ぶんの窒素がすでに体内にあるのと一緒、ということになります。

それで質問者のダイビング・プロフィールから 2 本目のダイビングが、最大水深が何メートルであったか思い出しましょう。-19m が最大水深でしたよね。

そこで表 3 の一番上の msw から -19m を探します。ですが見つかりませんから、-19m より深い最も近い水深 -21m を選択します。赤丸で囲った 21 がそうです。

そして水面休息時間を終えたときの反復グループ記号は G でした。新しい反復グループ記号の欄から選択します。わかりやすいようにこれも赤丸で囲みました。

この表 3 が他の表の引き方と違うところですが、表 3 は先程の予定最大水深 -21m と、水面休息時間を終えた直後の反復グループ記号 G の交点を見つけます。

ここが苦手という方が多いのですが、輪ゴムが 2 本あれば、簡単に解決します。縦方向と横方向に輪ゴムをそれぞれかけてやって、水深と反復グループ記号のそれぞれの縦軸と横軸に輪ゴムをセットしてやれば、自然と交点がでてきます。

交点のマスを読み取れば、そこに RNT と AMDT が書かれています。

質問者の場合、最大水深を -19m としていて、新しい反復グループ記号が G でしたから、その交点の RNT は 34 分、修正最大潜水時間は 6 分となります。

なので彼は次のダイビングで -19m まで潜るなら 6 分しか潜れないことになります。ですが彼は 40 分も潜ってますね。表 1 に戻って彼がどれくらい MDT をオーバーしているのか見てみましょう。

2 本目

NAUI ダイブテーブル 2022 年版

さて、表 1 に戻ってきました。彼は最大水深 -19m を計画して実際に -19m まで潜ったとのことでしたね。このとき表 1 は -19m より深く一番近い水深 -21m で引くのでした。

-21m の MDT は 40 分です。ですが、彼は 1 本目のダイビングと水面休息時間で体内に残留窒素が、-21m 換算で 34 分ぶんの窒素が残留していたのでした。ですから彼がこの水深で実際にもぐれる時間は 40 - 34 = 6 分ということで、AMDT と同じ数字が出てきました。当たり前の話ですね。

ですが彼は 40 分も潜っています。ですから RNT を 40 分に加えると、彼の体内にはこの水深で 74 分潜っただけの窒素が溶け込んでいることになります。表 1 に 74 分なんて数字、見当たりませんよね?

NAUI のダイブテーブルでは -19m では 40 分を超えて 48 分までの潜水の場合は -5m で 2 分の減圧停止をせよ、と書かれています。-21m の 48 分のマスを見てくださいね。

つまり彼は 2 本目のダイビングで、必要な減圧停止水深、減圧停止時間すらわからない潜水をしてしまったことになります。

わたしが現地を担当するスタッフなら救急車をすぐに呼んで、彼を安静状態にして、付きっ切りで彼の容態に変化がないか、救急隊が到着するまで、経過観察し続けなければならないような、そんな状態です。

彼が最悪死亡する、あるいは一生重篤な障害をかかえて生きていかないといけないという、覚悟までしなければならない、そんな彼の 2 本目のダイビングになります。

当然 3 本目のダイビングなんてあり得ないということになります。

と、怖い話をしましたが、以上はダイビングテーブルで、体内の残留窒素を管理する場合のシナリオになります。

彼の潜水プロフィールを見ると、平均水深もさほど深くなく、あの 3 本のダイビングなら普通にありそうです。恐らく減圧症になることもなさそうです。なぜかといいますと、あのダイビング・プロフィールはダイビング・コンピュータを使っているのならありがちなダイビング・プロフィールだからという話になります。

ですが、もしかすると 3 本目のダイビングで、ダイビング・コンピュータがシーリング指示を出している可能性があります。3 本の潜水が 3 本とも 40 分という長いダイビングになっています。3 本目になにかあってもおかしくないんじゃないかという印象を持ちます。

3 本目

ダイブテーブル上、潜れないので何も書けません。

彼のダイビング・プロフィールの望ましくない点

最初にこの質問者の人のダイビング・プロフィールが減圧症リスクを高める望ましくないものだといい、その理由を後述すると約束していました。なのでそれをここから説明します。ですがここでの指摘は全てオープンウォーターの学科で学ぶことばかりです。やはりファンダイバーの皆さんには思い出していただきたいことなので、復習のために、まとめておきます。

  1. 最初に彼のダイビング・プロフィールのもっとも良くない点を書きます。

    それは彼が 1 本目より 2 本目で、より深く潜っているということです。

    オープンウォーターの学科を思い出してほしいのですが、ダイビングはどのように潜るべきだったのでしょうか?そう、反復潜水毎に最大水深も平均水深も浅くしていく必要があるのでした。

    それはなぜか覚えていますか?そうですね。反復潜水を繰り返す毎に、いくら水面休息時間を設けても、どうしても残留窒素量は増えていくのでしたね。覚えていますか?

    ですからわたしたちダイバーは、1 本のダイビングでも、最初に深いところに行き、どんどんと水深を浅くしているダイビングをするのでした。この原則はダイビング・コンピュータを使うようになっても変わりません。体内に窒素が溶け込む仕組みは変わりませんから、ダイビング・コンピュータを使うようになっても、そのことが一緒なのは当然のことです。

    この、深いところから浅いところへ、の原則は、1 本のダイビングの中だけにとどまらないのでした。その日 1 日の複数のダイビングでもそうでしたし、ツアー期間の複数日にわたる一連の反復潜水でも同じことが言えるのでした。思い出してくださいね。ダイビング・コンピュータに慣れていると忘れがちです。

    減圧症を予防する上で、深いところから浅いところへ、という原則は常に守らなければならない、わたしたちが陸生動物の人間である以上守らなければならない大原則であることを思い出してください。

    減圧症になってから後悔しても遅すぎます。

  2. また水面休息時間がやたらと短いのも気になります。特に 2 本目と 3 本目の水面休息時間が、最初の水面休息時間より短いのは、おもわず「なぜそんな危ないことを!!」と声が出てしまいます。

    反復潜水をするたびに、残留窒素は累積していきます。水面休息時間を短くしていくのはリスクしかありません。ダイビング・コンピュータを使っていてもです。

  3. 潜水時間が 3 本とも 40 分というのも心配になります。体に本当に異常はないのでしょうか。

    もしかすると、ダイビング・コンピュータに 1 度もシーリングの指示がでていないかもしれません。ですがダイビング・プロフィールを見る限り、減圧不要限界ギリギリを攻めているようにしか見えません。

    ダイビングは、減圧症になるかならないかを競うチキンレースではありません。どうか安全マージンを考えて、ダイビング・コンピュータも保守的に使ってください。

    本当に減圧症になってからでは、遅すぎるのです。