13 日の白浜の観測塔での件ですが、いろいろネットでは推測が流れています (ここもその 1 つになります)。状況から考えると事故ではなく病気である可能性が高いのではと推測します。何で亡くなったのかという医学的な所見がまだ出てきていないので、現時点では推測に過ぎませんが。
安全停止を終えたゲスト 2 人を (一部のメディアが言っている減圧停止はおそらく間違い) ボートに上げた後、ということは、引率者である森内さんは当然ゲストのエグジットをサポートするために水面にいたはずなので、その時点で森内さんが事故を起こすとは現実的に考えにくいかと思います。
エグジットしたお 2 人が、ボートに上がる途中で森内さんの異常に気がついたという話は今のところありませんから、おそらくはお 1 人はボートの上で機材を下ろしてオフティングと機材の整理をしていたのかもしれません。またもうお 1 人はまさにボートのラダーを登っていたのかもしれません。
そうするとお 2 人が森内さんに異変が起きていたとしても、気づくことはできないでしょう。もし気がついていたら何もしない、異変を誰にも伝えないということはあり得ません。「森内さんが (ぼくらを上げた後に突然) 沈んだ!!」などと叫ぶでしょう。
ですから森内さんは、誰も見ていない、全員から死角にいるときに、人知れず何らかの理由で沈んでいってしまった。その理由は突然の病気、例えば突発的な心不全などではないだろうか、と推測します。むろん医学所見がでないことには、わかりませんけれど。
インストラクターに限らず、ダイブマスター、アシスタント・インストラクターは、水面に浮上したら、ゲストに BC に吸気して浮力を確保するように必ず指示します。今も昔も最も事故が発生する場所は、水面であることに変わりはないので、この指示は当然のことです。ですがわたしたちは、ゲストのように水面で自分自身の BC に吸気して浮力を確保したりはしません。
これはなぜかというと、ゲストになにかあって、ゲストが沈み始めたら、瞬時にレスキューのために潜らないといけないから、ということになります。レスキューは秒の勝負になります。ゲストが 1m や 2m も沈んでからでは遅すぎるのです。BC に吸気して自分の安全のために浮力を確保していたらレスキューが間に合いません。なので自分自身の浮力は確保しません。
森内さんが BC に吸気されていれば、少なくとも -30m で心肺停止で発見という最悪の事態は避けられたとも言えるのですが、わたしたちはそれをするわけにはいきません。わたしたちがわたしたちの身を守ることを最優先にすると、いざというときにゲストを守れないからです。
なのでわたしたちが、突然の病気などにより水面で意識を喪失して沈み始めたら、誰かにレスキューされない限りそのまま沈んでいってしまうことになります。これはインストラクター、ダイブマスター、アシスタント・インストラクターの宿命とも言えます。
またゲストを引率するインストラクター、ダイブマスター、アシスタント・インストラクターは、フォーメーションシステムを取りながらもバディシステムを維持するようにゲストを指示します。ですが、当の本人たちはソロ・ダイビングになってる、と指摘されることもあります。事実その指摘どおりになっています。
これも、ゲストの安全を最優先にする都合上、そうならざるを得ないのですね。わたしたちがバディ・システムで潜るとフォーメーション・システムが機能しなくなる。そうするとダイビングとはなにか、バディシステムとはなにか、ダイビングにおけるリスクとはなにかということを、まだ十分に深堀りできていない、自分自身のヒヤリハット体験に気づけるほど経験を積めていない、多くのゲストの事故リスクが無視できないほど増大してしまいます。
なのでフォーメーション・システムの中で、わたしたちスタッフは決してやってはいけないと指導しているソロ・ダイビングをやらざるを得ない、そういう状況にあるわけです。しかもそれを解決する方法が、現時点で存在しません。
そもそもインストラクターやダイブマスター、アシスタント・インストラクターという人種は、一般のダイバーと比較して、事故当事者には非常になりにくい人種でもあります。それは、そのような訓練と経験を積んでないとなれない職業だからということになります。
またゲストの安全を高めることで、特に自分自身に特別な何かをしなくても、自然と自分自身が事故を起こしにくくなる。そういう性質のある仕事だとも言えます。
それは恐らく、ゲストにトラブルやヒヤリハットが起きたときに、わたしたちは慌てながらも冷静に対処する必要があります。冷静でないとそのままゲストの事故にまっ直線になってしまうからです。なのでどんなときでも冷静でいられるような訓練と経験を重ねることになります。その結果、自分自身のちょっとトラブルでもすぐに対処してしまって、結果としてヒヤリハットにすらならない、ってことが大半になっているんだろうと思います。
ましてや、亡くなった森内さんはインストラクタートレーナーというインストラクターを養成する側の人でもあるし、公官庁の救助部隊を指導されている方。
そいういったことを考えあわせると、やはり事故じゃなくて病気じゃないか、としか思えないのですね。わからないのですけど。おそらく検死報告書が DAN あたりにも行くはずなので、いつになるかはわかりませんが、いずれ詳しい情報はでてくるかも。
奥様もインストラクターとのこと。ご夫婦でショップを立ち上げて、二人目のお子さんが生まれたばかりとの話も聞きます。まさに、これからというときだったのかもしれません。胸が締め付けられます。奥様の心中も、いかほどか。心からお察し申し上げます。
最後に、志半ばで急逝されることになった森内さんのご冥福を心からお祈り申し上げます。