ダイブマスターコース、アシスタント・インストラクター受講中の皆さん!!
いよいよ楽しみにしていた、スクーバ・ベイルアウトですね!!
ベイルアウトはとっても楽しみ!!とっても大好き!!
はい、ご一緒に!!
ふふっ、みなさん、いい復唱ですね。わかってきましたね!!
でも、いきなり、やれ、と言われてできるものでは、やっぱりないので、まずはビデオと簡単なブリーフィングで、スクーバ・ベイルアウトについて復習しましょう!!
はい!!このビデオの一連の手順がスクーバ・ベイルアウトなのでした。
もう一度、手順を復習しましょう。
まずスクーバ・ユニットは、タンクのバルブを閉めて、レギュレータはパージします。
そして、そのスクーバ・ユニットとマスク、シュノーケル、フィン、ウェイトベルトを保持したまま、水面に飛び込みます。
そのときに「アムロ行きまーす!!」とか声を出すのがおすすめです。え、いや「今日の担当インストラクターはかわいい!!」とかでもいいですよ。えへへへへ。
それは冗談ですが、声を出しながら飛び込むのはお勧めです。なんでかわかります?
そう、水底まで息をもたせようと思って、肺いっぱいに空気を吸い込むとどうなります?
オープンで誰もが習いますよね?肺が一番大きな浮き袋だって。つまり潜降したくても、肺いっぱいに空気を吸い込むと、まったく沈めないってことに!!
たしかに水中で息をはけば浮力が減るので、潜降しやすくなります。たぶんみなさんなら、それくらいの肺を使っての浮力調整なんて、なんなくやってしまうでしょう。
でもですね、水底に着底するまではスキン・ダイビングと同じ閉息潜水になります。
スキン・ダイビングで、潜水中に肺から空気を吐き出すことって、どんなリスクがあるんでしたっけ?
そうですね。浮上中に肺胞と肺胞を取り巻く毛細血管の間で、酸素分圧の逆転現象がおきてしまって、血液中から酸素がどんどん肺胞内に排出されてしまって、シャローウォーターブラックアウトのリスクが、非常に高まるのでした。
それと、うっかり水中で空気をはき過ぎてしまって潜降をし続けると、環境圧の増加で肺がスクイズを起こしてしまって、胸郭から肺が剥離するような重大な損傷を受けるリスクもあるのでした。
もし水深が変わらないなら、このような危険なことは起きないのでしたよね?でもスクーバ・ベイルアウトのときは着底するまで水深が増えていきます。環境圧が増えていきます。
オープンで学んだように、マスクや中耳のような閉塞空間は、周囲の圧力が増えると、何もしなければスクイズを起こすのでした。
マスク、中耳、副鼻腔、スーツの隙間などだけでなく、肺もやはり閉塞空間です。人間の肺やそのまわりは柔軟なので、ある程度はスクイズに耐えることができます。ですが人体の限界を超えてしまうと、たいへんなことになってしまいます。
ですから、わたしたちは、スクーバ・ベイルアウトでも、タンクのバルブを開けて、レギュレータをクリアして呼吸を再開するまで、肺から空気を出してはいけません。
それを新たな受講生、たとえばダイブマスターコースの受講生やアシスタント・インストラクターの受講生にも見せてはいけません。デモンストレーション・レベルという言葉には、そのようなことも含まれます。
はい、そうですよ。今日からベイルアウトを練習して、デモンストレーション・レベルでそれを行うことになるみなさんは、わたしたちがみなさんのスクーバ・ベイルアウトに OK を出したその瞬間から、新たなダイブマスターコースの受講生やアシスタント・インストラクターの受講生に、そのスキルをデモンストレーションする立場になります。
なのでスクーバ・ベイルアウトでは、最初からあまり多くの空気を肺に入れない状態でスタートします。なので叫んだり大声を出すのをお勧めしているわけです。
声に出すのは「シャア!!謀ったなっ!!」でもいいですし。あ、ちょっと このセリフは、ちょっと縁起がわるいですね。「ガルマはsh……」あ、やっぱりこれも駄目ですね。「当たらなければどうということはない!!」はどうでしょうか。
でも声を出すこと自体は、実は冗談ではないのですね。
スクーバ・ベイルアウトでも、安全に正しく潜降し、着底したら落ち着いて次の順番で機材を装着していっってください。
まず最初に息を吸い込みすぎずに水に飛び込み、機材を保持したまま着底するまで潜降します。
耳抜きの方法はバルサルバ法にこだわりません。どうしてかというと、スクーバ・ベイルアウトのデモンストレーションを観る人は、みなさんのようなリーダーシップ候補生ということだからになります。
もちろんバルサルバ法でなければ耳が抜けない体質の方は、言うまでもありませんがバルサルバ法を使ってください。
たまに根性を出して我慢してやろうとして、鼻血を出す人がいますが、それは絶対にやめてください。危険ですし、そのような誤った根性は、新たな受講生にも絶対に見せてはいけないものです。
もし潜降中に我慢出来なければ全機材を放り出して水面に向かっても構いません。スクーバ・ベイルアウトは ITC では検定で不合格になると、インストラクターとして認定されることが難しくなります。
スクーバ・ベイルアウトは、DM コースや AI コースでもクリアしければならない必須の水中技能ですが、何度もリトライすることが許されています。
なので落ち着いてデモンストレーション・レベルでできるようになるまで、何度でも失敗してください。私たちはみなさんがデモンストレーション・レベルでできるようになるまで、ずっと側にいます。ですから、すぐにできないからといって、諦めずに続けてください。みなさんができるようになるまで、お手伝いするために、わたしたちがいます。
今日はわたしともう1人、インストラクターの彼もいます。うまく行かなったりしたときに、わたしや、彼に相談してくれてもいいですし、皆さん同士で、いろいろアドバイスしあってください。
今、皆さんは、わたしや彼を教えてくれる人っていうように見ているかも知れません。もちろんみなさんは、わたしたちのお客さんではあるのですけれど、わたしたちからは、みなさんが次のダイバーが育っていくことを手伝っていく、新しい仲間だと、すでに思っています。
仲間同士が助け合うのは当たり前のことです。ですから助け合いましょう。
実際のところ、今日皆さんのまえで失敗してはいけないので、わたしも彼も、昨日、ちょっとリハーサルでチェックをしています。やっぱり前のデモンストレーションから時間が空いちゃうと、失敗したりもすることが……
なので実のところわたしも彼も昨日練習してました。
え?バラしちゃ駄目だった?いいよね?もうみんな仲間だし。
ね?彼も笑って、うなずいてますし。
それで、さきほど失敗しても構わないといいましたが、もし水中でタンクのエアを一口でも吸ったなら、機材を放り出して水面にダッシュするのは、絶対にやめてください。理由はわかりますね?場合によっては命にかかわる事故になります。
次に水底に着底したら安定した姿勢をとります。
そして一番大事な呼吸を再開するために、タンクのバルブを開けて、レギュレータをくわえてクリアし、呼吸を再開します。
レギュレータクリアの方法は問いません。セカンドステージのパージボタンを押してもいいですし、単に息を吐いてクリアしても構いません。ただ両手が塞がっているので、息をはいてレギュレータをクリアするのが現実的です。息をはくということ自体が気持ちを落ち着かせる効果もありますし。
次にマスクを装着して視界を確保してください。わたしたちの潜水指導団体では、呼吸の確保、視界の確保、泳力の確保が最優先事項とされていて、呼吸が最優先なのは当たり前ですが、その次に視界の確保が優先される、とされています。
それはやはり視界が不十分だと、人にとってそれは大きなストレスになるからです。オープンを受講中の人を思い出してください。あるいはみなさんのオープン受講中だったときのことでもかまいません。
なにが一番苦手だったか、思い出してください。マスククリアとマスク脱着だったのではありませんでしたか?
つまり視界がきかないということは、人にとってかなり強いストレスになります。これは人間の生理的な宿命と言えます。なのでわたしたちは、呼吸の確保に継いで、視界の確保を最優先事項にしています。このことはなぜかインストラクター用のマニュアルにも書いてないのですけどね。でも最重要事項の 1 つとされています。
次に安定した姿勢のまま、片足ずつフィンをはいていって、遊泳能力を再獲得します。
フィンを履いていないと、わたしたちダイバーが、どれだけ泳ぐ能力がないか、みなさんはもうご存知ですね?やっぱり重くてかさばる機材を背負って行うダイビングというものは、水泳とは違うものなのですね。
次にスクーバ・ユニットを装着します。これはオープンウォーターのデモンストレーションと同じです。もちろんデモンストレーション・レベルでオープンの受講生の人でも、見てれば何をどうやっているのかわかるように、やってください。
次のウェイトベルトの装着も同様です。
そして全ての機材を装着し終えたら、呼吸を整えて、中性浮力をとり、通常のフリーアセントを行ってください。
通常のフリーアセントですから、当然デモンストレーションレベルで、正しい浮上法で浮上してください。インフレーターホースを掲げて BC のエアを抜かない、反対の手を上に上げずに頭上の安全を確保しない、そもそも水面を見ずに水面の安全を確認しないなんて、ありえません。
そういったところも、きちんと基礎通り確実に行ってください。手を抜くようなところがあれば、認定は難しくなります。
水面に出たら BC のエアをすべて抜き、マスクとレギュレータを外して 5 分間の立泳ぎです。
この立泳ぎがなんであるのかわかりますか?
そう。中にはベイルアウトを楽にしようと、オーバーウェイトでやっちゃう人がいるわけです。そういったオーバーウェイトでしのごうとする人は、この立泳ぎでふるい落とされます。
ちゃんと手抜きがわかるようになっているのですね。
ですからみなさんは、きちんと適正ウェイトで、正しく潜降できるような、適切な肺のなかの空気の量というのを、トレーニングで探ってください。そのための時間はたっぷりあります。焦らずにやりましょう。
大丈夫です。
最初は、視界もきかずになかなか水底につかない、そんな精神的なプレッシャーに負けて、全機材を放り出して水面にダッシュしてしまうかもしれません。
デモンストレーション・レベルでできなくて凹んだり、すごく悩んでしまうかもしれません。
でもそれらは誰もが通ってきました。わたしと彼もそうです。最初はみんなできなかったのです。
でもいずれ必ずできるようになります。焦らずじっくり取り組みましょう。必要な時間の、長い、短いは個人差がありますけど、必ず、全員できるようになります。一緒にがんばりましょう。
さて、これまで、スクーバ・ベイルアウトの手順について述べてきました。でも話はこれだけではありません。
はい、そこのあなた、もういいかげんにさっさと始めようぜ、って顔をしてますね?ですが……
ここで、あなたに質問しますね?
わたしはスクーバ・ベイルアウトの練習中に何に対してどのように気をつけないといけないか、それらを雑に扱うとどんな危険に結びつくか話してきました。
そんなリスクがある練習をなぜ私たちは練習するのでしょうか?答えてください。
はい、水中技能の向上。それもあってます。
それでは次に、そこのあなた。どうですか?
え?ダイバーとしての高みに登る?
ん〜、すいません。その考え方、わたしや彼にはわからないです。
スクーバ・ベイルアウトができたくらいで、高みに登ったことになるのですか?練習さえすれば、誰でもできるのに?
いや、怒ってはいないです。でもインストラクターに限らず、この仕事は毎日のように自分自身のダメさ加減に直面する仕事です。これはオーナーになっても同じだそうです。お父……いえ、オーナーもそう言ってました。
もし本当に自分が高みに来た、そう思ってしまうなら、そう錯覚してしまうなら、おそらくそれは、もうこの仕事をやめないといけない、いえ、ダイビング自体をやめないといけないときだと、わたしたちは、そう思います。バディやゲスト、自分自身や同僚が危険な目に合う前に、この仕事を、ダイビング自体をやめるべきです。そう思います。
話がそれてしまいました。もとに戻しますね。
どうしてスクーバ・ベイルアウトのようなトレーニングをするのか?
それは、危機的状況に究極に近い状態において、自分自身のストレス反応や、心の状態をコントロールし、間違いの少ない手順で、問題を少しずつ解決し、最終的に通常のモードに自分を持っていくように、全てをコントロールできるようになるためです。
とはいえ実際に事故と同じ状況に身を置くわけにはいけませんから、事故という状況には程遠いけれども、なるべくそれに近づけた、でもより安全な、シミュレートされた状況として、タンクのバルブを閉め、レギュレータをパージし、全機材を腕に抱えた状態というのを、最初の状態にしているわけです。
そして少しずつ課題を克服して、最終的に Get Control する、それがベイルアウトのトレーニングの目的になります。
まとめます。
スクーバ・ベイルアウトのトレーニングの目的は強ストレス状況において、最終的に自分のコントロールを得ることでした。
トレーニングの目標としては、スクーバ・ベイルアウトをデモンストレーション・レベルで実施すること。
そしてスクーバ・ベイルアウトの手順も詳細に説明してきました。
ダイブマスターコースや、アシスタント・インストラクターコースでは ITC での検定と違って、一発不合格なんてことはないことも、お話してきました。
ですから、同じ志をもつ仲間として一緒に頑張りましょう。
またこのトレーニングでは、潜在的なやや高めのリスクがあるとお話しました。なのでわたしがデモンストレーションをした後、皆さんにはお一人ずつ、わたしと彼とそれぞれマンツーマン方式でトレーニングに入ってもらいます。
安全上のリスクがありますので、他の人は勝手に練習するのではなく、マンツーマンで練習している方を見ていてください。もしなにか気づいたことがあれば、アドバイスしてあげてください。ディスカッションも歓迎です。
私たちは同じ目標をめざす仲間です。一緒にがんばりましょう。
それではデモンストレーションを始めますので、皆さんは全ての機材を装着して、水底で見ていてください。始めます。
インストラクターちゃんシリーズ内のエピソードは、あくまで架空のエピソードです。登場人物も全て架空の人物です。実在する潜水指導団体、ダイビングショップ、ダイビングサービス、ショップオーナー、インストラクター、ダイブマスター、アシスタントインストラクター、ダイバー、新婚夫婦とは一切関係がありません。ご注意ください。