温泉宿の露天風呂に浸かっているダイブマスターちゃんとインストラクターくんですが、インストラクターくんが口を開きます。
「やっと全部終わったって感じがするね」
「うん」
「終わってないけど」
「そだね」
「それにしても式の直前まで」
「いっぱいケンカしちゃったね」
「やることがいっぱいで、調整とかもたくさんあったし」
「こんなにケンカして、これから大丈夫かなって」
「思った思った」
「でも嵐が過ぎ去ったら……」
「なんだか、いつものぼくらに戻っちゃったね」
「えへへへへ」
「ん?何?」
「ん……」
「うん」
「ん?」
「……」
「なんで自分だけ目を開けてんのさ?」
「えへへへへ」
「何?」
「好きだなって思って」
「ふぅ、あのね?」
「えへ」
「キスはまじめに」
「はーい」
「ん……」
「ん……」
「好き……」
「ぼくも……」
「……」
「……」
「……」
「なに?なんで、また泣いてるの?」
「違うの。わたし、幸せだなぁ、って」
「ぼくもだよ」
「ん……」
「ん……」
「ん?」
「なに?どうかした?」
「なにか音がしたなって」
「気のせいじゃない?」
「人が来たんじゃ」
「大丈夫じゃない?ペンションのオーナーが、使用中の札をぶら下げてたら、他の人は入ってこないって言ってたし」
「そうかな」
「鳥かも。街の冬鳥が、夏場はこのあたりに移動するらしいし」
「漂鳥だっけ?」
「そうそう」
「ここで冬を越して」
「また街で子育てをして」
「またここに戻ってくる。すごいね」
「そだね。それより夕日、綺麗だよ」
「ぶぅ」
「なに?ほっぺ膨らませて」
「そこは、君のほうがきれいだよ、でしょ」
「夏目漱石だっけ?」
「あっちは夕日じゃなくて月だけどね」
「今日は満月だっけ?」
「ぶぅ。旅行の間くらい仕事のことは忘れようよ」
「ごめんごめん。でも意外だったな」
「何が?」
「君のことだから旅行先は海だとばかり思ってた」
「海もいいんだけど、家族で年に 1 度は来てたから」
「いいとこだね」
「でしょでしょ」
「北アルプスの山並みが見えるのが」
「すごくいいでしょ」
「うん、すごくいい、すごく、のんびりできる」
「ねぇ」
「なに?」
「赤ちゃんだけど」
「うん」
「何人くらいがいい?」
「そうだね、」
「あ、ちょっとまって。いっせいので」
「わかったよ」
「いっせいのーで!!」
「「2人!!」」
「えへへへへ、気が合うなぁ」
「いやいやいや、相談してたやん」
「どうして急に関西弁」
「ちゃうねん」
「あれ?あなた関西出身だっけ?聞いてないよ」
「ちゃうねん」
「……」
「……」
「ちょっとのぼせてきたかも」
「そろそろ出ようか」
「うん……でも、もう少し……こうしてたい……」
インストラクターちゃんシリーズ内のエピソードは、あくまで架空のエピソードです。登場人物も全て架空の人物です。実在する潜水指導団体、ダイビングショップ、ダイビングサービス、ショップオーナー、インストラクター、ダイブマスター、アシスタントインストラクター、ダイバー、新婚夫婦とは一切関係がありません。ご注意ください。