バーr……blog のようなもの 2025 年 06 月

06 月 26 日 ( 木 )

Dive #30: 露天風呂の日

温泉宿の露天風呂に浸かっているダイブマスターちゃんとインストラクターくんですが、インストラクターくんが口を開きます。

「やっと全部終わったって感じがするね」

「うん」

「終わってないけど」

「そだね」

「それにしても式の直前まで」

「いっぱいケンカしちゃったね」

「やることがいっぱいで、調整とかもたくさんあったし」

「こんなにケンカして、これから大丈夫かなって」

「思った思った」

「でも嵐が過ぎ去ったら……」

「なんだか、いつものぼくらに戻っちゃったね」

「えへへへへ」

「ん?何?」

「ん……」

「うん」

「ん?」

「……」

「なんで自分だけ目を開けてんのさ?」

「えへへへへ」

「何?」

「好きだなって思って」

「ふぅ、あのね?」

「えへ」

「キスはまじめに」

「はーい」

「ん……」

「ん……」

「好き……」

「ぼくも……」

「……」

「……」

「……」

「なに?なんで、また泣いてるの?」

「違うの。わたし、幸せだなぁ、って」

「ぼくもだよ」

「ん……」

「ん……」

「ん?」

「なに?どうかした?」

「なにか音がしたなって」

「気のせいじゃない?」

「人が来たんじゃ」

「大丈夫じゃない?ペンションのオーナーが、使用中の札をぶら下げてたら、他の人は入ってこないって言ってたし」

「そうかな」

「鳥かも。街の冬鳥が、夏場はこのあたりに移動するらしいし」

「漂鳥だっけ?」

「そうそう」

「ここで冬を越して」

「また街で子育てをして」

「またここに戻ってくる。すごいね」

「そだね。それより夕日、綺麗だよ」

「ぶぅ」

「なに?ほっぺ膨らませて」

「そこは、君のほうがきれいだよ、でしょ」

「夏目漱石だっけ?」

「あっちは夕日じゃなくて月だけどね」

「今日は満月だっけ?」

「ぶぅ。旅行の間くらい仕事のことは忘れようよ」

「ごめんごめん。でも意外だったな」

「何が?」

「君のことだから旅行先は海だとばかり思ってた」

「海もいいんだけど、家族で年に 1 度は来てたから」

「いいとこだね」

「でしょでしょ」

「北アルプスの山並みが見えるのが」

「すごくいいでしょ」

「うん、すごくいい、すごく、のんびりできる」

「ねぇ」

「なに?」

「赤ちゃんだけど」

「うん」

「何人くらいがいい?」

「そうだね、」

「あ、ちょっとまって。いっせいので」

「わかったよ」

「いっせいのーで!!」

「「2人!!」」

「えへへへへ、気が合うなぁ」

「いやいやいや、相談してたやん」

「どうして急に関西弁」

「ちゃうねん」

「あれ?あなた関西出身だっけ?聞いてないよ」

「ちゃうねん」

「……」

「……」

「ちょっとのぼせてきたかも」

「そろそろ出ようか」

「うん……でも、もう少し……こうしてたい……」


作者注:

インストラクターちゃんシリーズ内のエピソードは、あくまで架空のエピソードです。登場人物も全て架空の人物です。実在する潜水指導団体、ダイビングショップ、ダイビングサービス、ショップオーナー、インストラクター、ダイブマスター、アシスタントインストラクター、ダイバー、新婚夫婦とは一切関係がありません。ご注意ください。