懐かしいものがでてきたので、NAUI ダイブマスター・コース受講中にあった、自分が当事者のプチ・パニック事件のお話を、非常に格好悪いのですけれども、今回しようと思います。
そもそもこれは、お客さんに絶対見せてはいけない失態ですし、仲間内では、デブリーフィングという名の反省会で、当然取り上げることになります。場合によってはどの団体なのかを問わず説教されるようなことです。なので、このことを書くかどうか迷っていたわけです。
一方で、これからリーダーシップを目指そうという人には、あのようなケースではどうすればいいのか、というノウハウの提供になるのも明らかで、特に、外から見るとミスった加害者っぽく見えるけれども、ある意味ぼくの一番の被害者だった PADI ダイブマスター候補生として一緒にコースを受講していた彼への擁護と、その後、彼がショックから立ち直って、無事 PADI ダイブマスターになって、この仕事に入れていたらいいな、という願いもあったりします。
彼、帰りの車の中で、ずっと窓の外を見て深刻な顔してたのですよ。一応車の中で、あれは俺が悪いんだよ、とは声をかけていたのですけれど、その顔が晴れることは車が大阪に戻ってきてもありませんでした。
実はあれからだいぶたっていて、もしかすると彼も PADI のベテランインストラクターになっていて、後進を育てる立場になっていたりするのかもしれませんが、実は今でも気になっています。
あれが原因で彼がリーダーシップを諦めていたなんてことになっていたら、それこそまじ凹みしますし、それこそ悔やんでも悔やみきれないので。
で、まぁ、書いちゃうのですけど、内容的にヒヤリハットトラブルの話なので SNS じゃなくて、ここに書いていこうと思います。
でも当事者が他のお客さんじゃなくて、自分でよかったと思います。お客さんが、あのようになったら、ご本人でリカバリーできるかどうか……スタッフとしては (あくまでよそから来たダイブマスター候補生なのでスタッフじゃないけど) メジャーレスキューに即時に移りますけども。
自分はアマチュア時代、まぁ仕事で潜るようになってからもそうなんですけど、実はパニックって自身で経験したことがありません。これはバディなどのパニックを経験したことがないというだけでなく、自分自身がパニックになるという経験が本当にまったくない。
ITC なんかでも、こいつ、こうしたらパニック起こすんじゃねぇか?といろいろされるんですけど、そうかこれが噂に聞くあれか、と対応しながら、つい笑ってしまっていました。笑ってちゃだめなんですけどね、ITC なんだし。真面目に対応しなくちゃいけない。ITC であれをやられる人とやられない人がいて、なんでやられるやつはやられるのかと言うと、陸ができてないから、ということになるのですが、1 度落ちた NAUI ITC の話は、今回は置いておきます。
で、上のリーダーシップログの画像に指導インストラクターのコメントにあるように、プチ・パニックをダイビング人生で初めて経験することに。
残っている上の画像のリーダーシップログに、普段なら指導インストラクターのコメントが残されますし、一緒にリーダーシップコースを受講している人のコメントも、そして私自身が記録するデブリーフィングの内容が残っているはずなのですが、このダイビングだけはそれがない。どれだけ 3 人が衝撃を受けていたかを真っ白なログが物語っています。
シチュエーションとしては、ボートダイビングでよく見かけるシチュエーションになります。
お客さんがタンクのバルブを開け忘れることって、よくあるじゃないですか。だからぼくたちは日常的に、エントリー直前のお客さんのタンクのバルブが、ちゃんと開いているかをチェックする習慣があります。
これはインストラクターだろうが、ダイブマスターだろうが、アシスタント・インストラクターだろうが、やっぱりお客さんのバルブが、きちんと開いているか、毎回バックロール・エントリーしようと、船べりに座っているお客さんのバルブを、お客さんをボートから落っことさないように注意しながら、最終チェックするわけです。
なぜかは自分でもわからないのですが、この日はわたし自身が、自分のバルブの開け忘れを、やっちゃった。
この時点で、もし指導インストラクターが師匠だったら、アホかーっ!!お前は現役のアシスタント・インストラクターやろが!!なにしとんねん!!着替えて荷物まとめて一人で家に帰れっ!!店にもう来るなっ!!とたぶん怒鳴られます。
もしかすると、この後のダイブマスターでのガイド実習に気を取られていたのかも知れませんし、あるいは、当時勤めていた別業界の本業で、ちょっと疲れていて、気が緩んでいたのかもしれません。
そういうときは、船べりから安全な場所に移動して、機材を降ろして、自分のバルブをチェックする、つまり手を抜かなければ、普段通りにすればいいだけなんですよね。仕事で海にでてるときに、お客さんの前で絶対やらないことを、いつもどおりやらなければ、ただそれだけでよかった。普段通りにするだけでよかった。でも、そのときはなぜか、そうしなかった。
しかも横に同じダイブマスター候補生がいる。カジュアルに、ちょっとバルブ見て、と頼んじゃったんですよね。
たしかに、ぼくらはその店の客という立場でもあるのですが、ダイブマスター候補生としてツアーに参加してたわけで、普通のお客さんとはちょっと違う立場なわけです。ぼくらはファンダイブでもないのに、カジュアルにバルブ見て、と頼むようなことをやっちゃいけないのに、やってしまった。
細かいのですけれど、わたしたちには、他のダイバーの手本となる丁寧な行動こそ、求められますし、非常に大事なわけです。なのでこの日のわたしの軽率さは、まったく言い訳できません。
わたしは機材は背負ってはいるけれども、マスクは首にかけてる状態でまだしてない、フィンもまだ片足を突っ込んだだけでちゃんと履いてない、という状態で、みんなをボートの上に残して、背中から海面に落ちてったわけです。
海面に向かって落ちながら、あ、浮力、と条件反射で頭で考えていました。
ある程度、理性は残っていたので、足から外れて沈んでいくフィンを横目に、ブーツだけで必死でキックして浮力を得ようとしながら、オーラルで BC に吸気するという行動にでてしまいました。
たぶんボートの上からだと、あいつ、溺れてるんじゃないか?って感じに見えていたと思います。
溺れてるわけではなかったのですが、頭の中は浮力の確保でいっぱいで、それ以外の考えがぜんぜん浮かんでくることがありませんでした。やっぱり制御を完全に失うほどではなかったにせよ、パニックは起こしていたのですね。完全に思考が狭窄している。
ブーツで必死で水を平泳ぎのようにキックしてなんとか浮力を得て、オーラルで BC に吸気することでなんとか浮力を確保して、BC を脱いで、水面でバルブを開けてってことをして、なんとか自力でリカバリーしたという、非常にみっともない姿を、ボート上の人たちに晒してしまったわけです。
マスクを装着して、フィンを回収しようと海底の方を見ると、おそらくどこか他店のインストラクターが、こいつ大丈夫かいな?という表情で、わたしのフィンを手に持って、水深 -3m くらいのところに浮いていました。
ギャーっ、見られた!!と思いながらも、そりゃ見られるわな、と自分に突っ込みながら、フィンを受け取って履いて、その後は何食わぬ顔でツアーガイドシミュレーションを続けました。
でもエアの消費を見ると、ゲストと変わんねーので、このトラブルが尾を引いて、心臓バクバク状態でガイディングを続けていたことが、エア消費量のデータから見て取れます (笑)
それで、その日、私たちがサービスに戻ってからも、ゲストの前では普段にこやかにしている、その日の指導インストラクターでもあった N さん (仮名) の顔に、3 人になるとずっと笑顔がない。
そりゃぁそうですよね。まさか目の前でよりにもよって、ダイブマスター候補生が、ボートの上からは溺れているようにしか見えない行動をしている。にこやかになれるわけなんてないのです。
もし本当にわたしが溺れていて、そのまま沈んでいってしまっていたら、と考えると背筋も凍る思いだったことは想像に難くありません。
「お二人共、ちょっといいですか?」
さすがに説教されるわけですが、もう 1 人のダイブマスター候補生の男の子は、さっきのダイビングから、ずっと深刻な顔をして青ざめている。
それはそうですよね。自分がバルブを開けそこねて、人 1 人を海面にバルブが閉まったままの状態で落としてしまった。そのショックは計り知れないわけです。それをやってしまったのが、仮にわたしだったら、やっぱり血の気が引くでしょう。
「〇〇さん (わたしのこと) だったから、よかったけど……」
と N さんが、言い始めたのですが、やっぱり、どう考えても、わたしが悪いので、彼女の言葉を遮って
「いやぁ、あれはわたしが悪かったんですよ。自分のバルブを開け忘れるなんて、現役のリーダーシップ失格です」
と、すかさず彼をフォローすると言うよりも、事実としてそうであることを述べたところ、まぁ彼女もそれ以上は言うまいと考えたのか、他のゲストのところの戻っていきました。
そのツアーの間、3 人になると 3 人とも押し黙って、笑顔が消えていました。
それで大阪に帰る車中なんですけれども、やっぱり彼はずっと押し黙ったまま、深刻な表情で、ずっと窓の外を見つめている。今回のツアーの引率兼わたしたちの指導インストラクターの N さんも、押し黙って、ずっと運転している。
他のゲストは後ろの座席で寝息をたてていたので、彼に、あれは何度も言うけど、俺が悪かったんだよ、だから気にしないで、あれをお客さんには絶対にしない、それだけでいいことなんだし、と彼に声をかけるのですが、さっき書いたように、大阪まで戻ってきても、彼の顔が晴れることはありませんでした。
今回のミスで、何も学ばなかったなんて形で終わっては、絶対にいかんので、助手席でいろいろ考えていました。
最初に頭に浮かんだのが S さん (師匠の名字が入ります) だったら、あのときボートの上で、どんな風に自分を怒鳴りつけるだろうか?ということです。
怒鳴りつけるのが前提なのか?と言われそうですが、たぶん怒鳴りつけられます。自分は S さんに怒鳴りつけられる経験はほとんどないのですが、致命的なミスをしたときは、さすがにお客さんの前でも怒鳴りつけられます。
それで、笑顔のまったくないまま (めずらしいことなので、やはり脳裏に焼き付いています) 車を運転している N さんに話し始めるのです。
今日のあれですけど、ずっと考えていて……わたしの師匠の S さんだったら、あのとき自分をどう怒鳴りつけてただろうって。
?っといった表情が N さんに浮かびます。
たぶんというか絶対に師匠なら、お前はそれでも現役のアシスタント・インストラクターかっ!?背中に背負ってるタンクは飾りかっ!?なんで水中で BC を脱いで、そのままバルブを開けて、マスクも着けて、フィンも回収して、シラっと素知らぬ顔で上がって冗談の一つも言えんねんっ!?なんで余裕で対応してるところを見せれんねん!?なんでそれを客に見せれんねん!?なんのためにベイルアウトを何度もデモ・レベルでやっとんねん!?こういうときこそ、それをやれっ!!って、それこそビビるくらいに怒ると思うんですよね。
たぶんになるけれど、そのときに一番安全な方法を、お客さんにデモンストレーションできてないってことで、無茶苦茶叱られると思うんですよ。
ここで N さんが爆笑しました。
大笑いのしすぎででてきた目尻の涙を拭きながら、やっぱり大笑いしながらですが
「〇〇さんのお師匠さんって、いい方なんですね」
そこまで笑わんでもと思いながら
「N さんだって師匠なんですよ?この世界は年齢の上下や性別に関係なく師匠と呼べる多くの人がいて、その人たちから多くを学ぶことができる。そんな幸せな世界だと、やっぱり思います。そんな人たちの一員になって、お客さんに幸せになってもらう。やはり生涯をかけてもかまわない、そんな仕事だと思います」
といったような話をした覚えがあります。
その日以降、わたしの課題はずっと、自分が無意識にできてしまっていることや、未経験ゆえにスルーしてしまいがちな事柄を、これでもかっ、というくらいに見える化されて、指摘され続ける毎日にフェーズが変わっていきます。しんどいのですが、自分の皮が少しずつ剥けていく実感を感じられるので、充実した日々でした。