今日の日記ではうつ病治療におけるお薬の話をします。
もちろん主治医からあった説明や主治医が勤務する病院の他の先生方が講演等で話されている内容です。間違った理解はしていないはずですが、内容をご利用の際は念のために確からしさをご自身の主治医にも必ずご確認ください。統合失調症の方も関係します。おそらくは他の精神科領域の疾患の方も。
私が通院している精神科単科病院では、二十数年に渡って抗鬱剤や抗精神病薬の単剤化を進めています。それには以下のような理由があります。
今日の日記では 3 の現代の抗うつ剤や第 2 世代抗精神病薬、リチウム、一部の非薬物療法が、疾患でダメージを受けている脳をどのように修復するのか概説します。患者なのであまり詳しくは説明できませんが、この程度の概略であっても知っておいて損はないかと思います。
まずはどのようにしてうつ病が発症するのかおさらいをしておきましょう。下図を参照しながら読んでいただくといいかと思います。
現在ではうつ病は図にあるような仕組みで発症すると考えられています。
身体的な病気や外傷による身体的ストレス、心理的ストレス、社会的ストレスにより脳のミクログリア細胞が活性化します。マクロファージの一種であるミクログリアが活性化すると、ミクログリアから炎症性サイトカインが放出されます。また同じくストレスに対する反応として副腎皮質からコルチゾールも分泌されます。
炎症性サイトカインとコルチゾールの働きにより BDFN (脳由来栄養因子) が不活化します。BDNF は脳神経細胞のアポトーシス (プログラムされた細胞死) を抑制する働きや、神経細胞新生を阻害する因子の抑制や、シナプス萎縮を抑制する働きがあります。なので BDNF が不活化するとシナプス萎縮が始まり、脳神経細胞アポトーシスが始まり、神経細胞新生が阻害されてしまいます。
脳神経細胞アポトーシスと神経細胞新生低下により脳の容量が低下します。うつ病の場合容積が主に低下する部位は前頭前野、海馬、白質と言われています。これらの容積萎縮により皮質下領域の働きが優位になります。皮質下領域が優位になると情動や意欲の低下が起きるようになります。
またシナプス萎縮が始まることで、よく知られているようにセロトニンなどの神経伝達物質の流れが滞るようにもなります。
以上のような機序でうつ病は発症すると現代の精神医学では考えられています。つまり現代精神医学でのうつ病治療は、脳神経細胞のアポトーシスをいかに防ぎ、神経新生をいかに誘導するのかに注力していると言えます。
下に医師に処方される薬がどこに、どのように作用するのかを表す概略図を示します。赤く塗られたものはアポトーシスを招いたり、神経再生を阻害する働きのある経路を示しています。
図で注目していただきたいのは GSKー3β という酵素です。GSKー3β が活性化すると BDNF を抑制し不活化します。そうすると Bad で始まる経路を抑制できずに脳神経細胞のアポトーシスが始まってしまいます。また GSKー3β が活性すると Wnt を不活化してしまい神経新生が阻害されてしまいます。
そのようなこともあり SSRI、SNRI などの抗うつ薬や第 2 世代抗精神病薬などは BDNF を活性化する働きが発見されたこともあり、BDNF を治療ターゲットとすることでアポトーシスを起きにくくし、神経新生を促すために薬物療法のプロトコルに組込まれるようになっています。この治療経路が有効になるには条件があって、これらの薬の単剤での最適量投与でないと効果が得られないことも知られています。
現代精神医学はうつ病の目先の症状緩和だけではなく中長期の治療全体を見て、脳自体の修復にフォーカスしていると言っていいかと思います。
またアポトーシスを誘導する経路として p52 で始まる経路もあります。こちらはリチウムの投与によりアポトーシスを抑制するように働きます。リチウムは GSKー3β も抑制するのでやはりアポトーシスを抑制します。リチウムは強力なアポトーシスを防ぐ治療手段となります。
これまで見てきたように、SSRI、SNRI、第2世代抗精神病薬、リチウム等は脳の容積を増やし脳を修復する働きがあることが知られるようになってきました。そのようなこともあり私の主治医はそう遠からず統合失調症や双極性障害、うつ病などの精神科領域の疾患を人類は克服できるのではないかとよく口にします。ただその言葉を最初に私が聞いてからすでに 30 年近く経っていますので現実にはなかなか難しいようです。
これを読んでいる人の多くは患者ご本人かご家族かと思います。お互いに未来を信じて諦めることなく、しっかりと治療に取り組んでいきましょう。